2022年3月22日火曜日

ハンス・ケルゼン『民主主義の本質と価値』

「多数決原理」 比例代表制


① 各党が得票数に比例して発言力を持つように構成された選挙制度は、選挙行為の主体を「全有権者ではなく、部分有権者集団」にする。この集団は、「共通の政治的信念を持つ者の全員」によって構成される。

② この有権者集団は、多数決原理の支配下にある有権者集団と性質を異にする。比例代表におけるある党への投票数は、他党への投票数と「敵対するものではなく、それと併存するものである」。比例代表の理想形態においては、多数対少数ということが存在せず、敗者も存在しない。比例代表によって選ばれた議会は、有権者全員により選ばれたもので、全員一致で選ばれたということになる。

③ この結果、比例代表の核心的原理たる「根源的民主主義の原理」が明らかになる。「比例の理念は民主主義のイデオロギーと接合」し、これを実現する場合は、「議会主義」の形態を取る。なお仮に、議会選挙に多数決制度が純粋に適用されると、議会には多数派代表のみが存在し、少数派代表は存在しないことになる。これに対し比例代表には、「議会に反対派をも存在させる工夫の合理化」という意義がある。そしてこの少数派(反対派)が、多数者意志形成に及ぼす影響力は、議会における少数派の勢力が大きいほど重要力を増す。こうして比例代表は、「自由への趨勢」、多数派の意見が無限に少数派の意見を支配することを阻止する趨勢を強化する。

④ 比例代表制に対しては、「小党分立の危険をもたらす」という批判がある。「確かに議会に絶対多数を持つ政党がなくなり」、「多数派形成を極めて困難にする可能性」はあり得る。しかし比例代表は、この点「政党間の協力を不可避」とし、議会において「最重要の共通関心事において結合する必要性」を議会の場にもたらす。このような「政党間協力を基礎とする政治的統合は、社会技術的」には「進歩」である。

⑤ そして比例代表下では、「単一集団の利害が国会意志になる」のではなく、政党に組織された「複数集団の利害が、一つの手続きを通じて互いに角逐し、やがて妥協的決着を見る」ことになる。比例代表制を基礎とする議会手続は、あらゆる党派の自己主張と相互競争、諸利害間の妥協を保障するものである。


ハンス・ケルゼン(長尾、植田訳)『民主主義の本質と価値』(2015年、岩波文庫)78ー84頁。



原田尚彦「裁量権収縮論」

 「一 法治行政と行政便宜主義」  行政庁は、公共の安全と秩序を保持する責任を負い、「そのために国民の権利自由に規制を加える権限を有している」。そしてこの権限は、「行政法規の授権するところに従い、法規にそって行使しなければならない」( 法治行政の原則 )。但し、授権がある場合でも...