幸徳秋水『帝国主義』2
「第3章 軍国主義を論ず」 軍国主義の「原因と目的」 「防御以外」「保護 以外にあらざるべからず 」。 軍備拡張の原因 「一種の狂熱」「虚誇の心」「 好戦的愛国心のみ 」。 甲「平和を希う」乙が侵攻しようとしている、乙「平和を希う」甲が侵攻しようとしている:「 世界各国皆同一の辞を成さざるはなし」 。 各国民は、「童男童女が五月人形、三月雛の美なるを誇り多きを競うが如く、その武器の精鋭とその兵艦の多きを競いつつあり」。 軍国主義者 「美術や科学や製造工業」「 戦争の鼓舞刺激 なくして能く高尚なる発達をなすは稀り」。 「我は戦争が社会文芸の進歩」を妨害するのを見たが、社会の発達を助けるのを見なかった。「『 膺てや懲らせや清国を 』という軍歌をもって我は大文学と 名くるを得ざるなり 」。 軍国主義者 「刀槍艦砲」の改造進歩は戦争のおかげ。 これは「科学的工芸進歩の結果にして」平和の功績。仮に戦争の功績としても、 国民の智識道徳の進歩 に貢献するところあるか。 軍国主義は「社会の改善と文明の進歩に資するを 得る者にあらず 」。「戦闘の習熟と軍人的生活は」、「決して政治的社会的に人の智徳を増進し 得る者にあらず 」。これを残す「 弊毒実に恐るべき者あり 」。軍国政治が「行わるる一日なれば、国民の道徳は一日腐敗するなり」。「暴力の行わるる一日なるは、理論の絶滅一日なるを意味するなり」。 cf.ドレフュス事件におけるような「暴横なる裁判」は、「陸軍部内にあらざるよりは、 軍法会議 にあらざるよりは、 決して見ることを得ざる ところなり」。「普通民法刑法の いやしくも許さざるところ 」。 「未だ軍備と徴兵が国民のために一粒の米、一片の金をだも産ずるを 見ざるなり 」。科学文芸宗教道徳の高遠な理想を「 破壊し尽くさんとする 」。 個人は武装を解かれているのに国家はそれができない。個人は暴力決闘が禁止されているのに国家はそれをできない。「二十世紀の文明はなお弱肉強食の域」を脱することができない。各国民が猛獣毒蛇の状態にあるのは恥ではないか。「 これ社会先覚の士が漫然看過すべきのところなるか 」。 幸徳秋水『帝国主義』(2004年、岩波文庫)51-84頁。